Deep Flow Space / Article

音

在宅で集中できない、話し声が気になるときの研究

公開 ・Deep Flow Space 編集部

在宅で仕事をしていると、隣の部屋から家族の話し声が聞こえてくる。別の部屋のオンライン会議の声が、壁越しに届く。小さな声なのに、なぜか文章が頭に入らない。この記事は、そんな場面で集中しにくくなっている人に向けて、話し声と作業の関係について研究で分かっていることを並べたものです。

先に答えを書きます。意味の分かる話し声は、読む作業を最も大きく下げる音の一つでした。邪魔の大きさは、音量よりも「言葉として聞き取れるか」で決まると報告されています。だから、声を小さくするより、言葉として聞き取れなくする手段のほうが、根拠に沿った打ち手になります。

話し声は、読む作業を最も大きく下げる音の一つ

柱になるのは、Vasilev らが2018年に発表した分析です。作業中に流れる音が読解にどう影響するかを調べた65の研究を、まとめて分析しました。

その結果、意味の分かる話し声は、読解と記憶を最も大きく下げる音でした。歌詞のある音楽も、話し声と並んで大きく下げる側に入っています。根拠の強さは A です(複数の研究をまとめた分析で、結果が一貫している)。

在宅の作業に置き換えると、資料を読む、メールや文章を書く、数字を確かめる。こうした言葉を扱う作業ほど、周りの話し声の影響を受けやすいことになります。

逆に言えば、手を動かすだけの単純な作業なら、同じ声でも気になり方は変わるかもしれません。ただ、作業の種類ごとに話し声の影響を細かく比べた結果は、根拠表の範囲では確認できていません。

音量より「聞き取れるか」で決まる

話し声の邪魔は、声の大きさだけでは決まりません。根拠表では、影響は音量より「聞き取れるか」で決まる、と整理しています。

聞き取りやすさを表す指標に、STI(音声伝送指数)というものがあります。話し声がどれだけ言葉として聞き取れるかを、数で表したものです。

Hongisto のモデルでは、STI が 0.5 を下回ると作業への影響が急に減り、0.20 を下回るとほぼ消えるとされています(強さ B)。オフィス音響の研究で使われてきた考え方で、2018年の国際会議の報告や、2019年の研究室の実験でも扱われています。

この考え方を在宅に当てはめると、2つのことが分かります。

壁越しの小さな声が気になるのは、気にしすぎだからとは限りません。言葉として聞き取れてしまうことが、作業と同じ処理を取り合っている可能性があります。

音に敏感な傾向がある人は、遮る手段を先に

話し声の気になり方には、個人差もあります。

オープンオフィスで働く166名を調べた Roskams らの2019年の調査では、音の快適さを最もよく予測したのは、騒音への感じやすさでした。感じやすさが高い人ほど、話し声の邪魔や集中のしにくさを多く報告しています。騒音に敏感な人ほど、騒音の中での知的な作業に適応しにくいとするレビューもあります(Belojevic ら 2003)。

根拠の強さは、主観の訴えについては B です。ただ、成績がどれだけ下がるかの大きさは確認できていません。

Deep Flow Space の根拠表では、この傾向がある人には、遮音や吸音の優先度を上げることを提案の順番にしています。

ノイズキャンセリングが話し声に弱い理由

声が気になるとき、最初に思い浮かぶのはノイズキャンセリングのヘッドホンかもしれません。ここは、得意な音と苦手な音を分けて考えると選びやすくなります。

ノイズキャンセリングは、低い音域(100〜250Hz 付近)に強いと報告されています。一方で、高い音域や、話し声のように変化する音には弱いとされています(強さ C)。

一般向けの製品で、話し声がどれだけ減るかを測った研究は見つかっていません。根拠になっているのは、軍用ヘッドセットの測定と、大学の研究です。だから「ノイズキャンセリングをつければ家族の声は消える」とは言えない状態です。

根拠表では、ノイズキャンセリングを使うなら、耳栓や遮音イヤーマフのような、耳を物理的にふさぐ道具と組み合わせる考え方をとっています。

声を減らす道具と、声を覆う道具

話し声への手段は、大きく2つに分かれます。声そのものを減らす道具と、声を目立たなくする道具です。

声を減らす側では、根拠表は読む・書く作業の既定として、周りの話し声を聞き取れなくすることを最優先にしています。具体的には次のような種類です。

声を覆う側では、サウンドマスキングという方法があります。一定の音を流して、周りの話し声を聞き取りにくくする考え方です。オフィス音響の研究と国際規格(ISO 3382-3)の指標があり、強さは B です。上の STI の話と同じ発想で、言葉として崩すことを狙っています。

ただし、覆うための音を足すことには別の論点があります。ホワイトノイズやピンクノイズを流したときの成績を調べた13研究のまとめでは、注意がそれやすい傾向の人では成績が小さく上がり、その傾向がない人では小さく下がりました(Nigg ら 2024、強さ A。対象は子どもから大学生の年代で、社会人は未確認)。周りに話し声がない時間まで音を流し続けると、この下がる側の結果に近づく可能性があります。

話し声の代わりに音楽を流すとき

家族の声を聞かないために、音楽をかける人もいます。ここは歌詞の有無で分けて考える必要があります。

歌詞のある音楽は、Vasilev らのまとめで、話し声と並んで読解を最も大きく下げる音でした(強さ A)。声を音楽で覆っても、その音楽に言葉が入っていれば、同じ種類の邪魔が残ります。

背景音楽全体については、Kämpfe らが2011年に研究をまとめています。全体を平均すると効果はほぼゼロでした。中身は、読解を下げ、記憶を少し下げ、気分は上げる、という打ち消し合いです(強さ A)。

好きな曲なら大丈夫、とも言い切れません。好きな音楽のほうが、嫌いな音楽より記憶課題の成績を下げ、本人はそれに気づいていなかったという研究があります(Perham & Sykora 2012、小規模な単独の研究で強さ C)。

アイデアを出す作業では、図書館の雑音は成績を下げなかった一方、歌詞のない音楽でも成績が下がったという報告があります(Threadgold ら 2019、強さ C)。

声のする時間と、読む作業の時間をずらす

道具の話とは別に、時間の置き方で話し声を避ける考え方もあります。

家族のオンライン会議や、生活の話し声が増える時間は、ある程度決まっていることが多いはずです。その時間に、言葉を扱う重い作業を重ねない。声の多い時間は、手を動かす作業や、音の影響を受けにくい作業に回す。研究で効果が測られた方法ではありませんが、話し声の害(強さ A)から組み立てた順番です。

時間帯については、得意な時間帯に作業を置くと成績が良いという研究もあります。18〜45歳を対象にした研究では、64研究中29件(約45%)で、本人が得意な時間帯に成績が良いという結果でした(Chauhan ら 2025、系統的レビューで強さ B)。話し声の少ない時間と、自分の得意な時間が重なるなら、そこが読む作業の置き場所の候補になります。

場面ごとの整理

ここまでの研究を、場面ごとに並べると次のようになります。

場面根拠に沿った手段根拠の強さ
読む・書く作業中に話し声が聞こえる声を聞き取れなくする。部屋を分ける・耳を覆うA(話し声の害)
小さい声なのに気になる音量より聞き取れるかの問題。言葉として崩すB(STI の閾値)
ノイズキャンセリングで対処したい低い音に強く、話し声に弱い可能性。耳栓と併用C
音に敏感な傾向がある遮音・吸音の優先度を上げるB(主観)/C(成績)
音楽で声を覆いたい歌詞のある曲は避けるA
ノイズで声を覆いたい傾向によって向きが分かれる。声のない時間は止めるA(若年層)/成人は未確認

よくある質問

家族の声が小さくても集中できないのは、気にしすぎでしょうか

研究では、話し声の邪魔は音量より「言葉として聞き取れるか」で決まると報告されています。小さい声でも、言葉が聞き取れるなら読む作業を下げる可能性があります。騒音への感じやすさには個人差があり、感じやすい人ほど話し声の邪魔を多く訴えるという調査もあります(Roskams ら 2019、主観について強さ B)。

ノイズキャンセリングのイヤホンをつければ話し声は聞こえなくなりますか

ノイズキャンセリングは低い音域に強く、話し声のように変化する音には弱い可能性があります(強さ C)。一般向けの製品で、話し声がどれだけ減るかを測った研究は見つかっていません。耳栓や遮音イヤーマフと組み合わせる考え方があります。

話し声が気になるときは、何か音を流したほうがいいですか

流す音によって変わります。歌詞のある音楽は、話し声と並んで読解を大きく下げる音でした(強さ A)。ホワイトノイズやピンクノイズは、注意がそれやすい傾向の人では成績が小さく上がり、その傾向がない人では小さく下がりました(強さ A。対象は若年層)。音を足す前に、声そのものを減らす手段から考える順番が根拠に沿います。

声を小さくするより、聞き取れなくする

在宅で話し声が気になるとき、問題の中心は音の大きさより、言葉として聞き取れることにあります。部屋を分ける、耳を覆う、声の多い時間に読む作業を置かない。どれも、言葉を作業から遠ざけるための手段です。

作業の種類や時間帯、音への感じ方によって、合う音の環境は変わります。いくつかの質問から、それらに合う環境を根拠の強さ付きで整理する診断は こちら にあります。

出典