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歌詞のある音楽は勉強の邪魔?65研究のまとめから
勉強や資料読みのあいだ、好きな曲を流している人は多いと思います。歌詞のある曲だと頭に入りにくい気がする。でも無音だと落ち着かない。この記事は、そんな迷いを持つ人に向けて、研究で分かっていることを作業の種類ごとに並べたものです。
先に答えを書きます。文章を読む・覚える作業では、歌詞のある音楽は成績を下げる側にはたらく、という結果が研究のまとめで一貫しています。一方で、気分を上げる・ストレスを下げるという別の面もあります。どちらを取るかは、いまの作業が何かで変わります。
読む作業では、歌詞が最も邪魔になる
まず柱になる研究です。Vasilev、Kirkby、Angele の3人は2018年に、背景の音が読解にどう影響するかを調べた65の研究をまとめて分析しました(ベイズ法によるメタ分析)。
結果は、音のある条件では読解が全般に下がるというものでした。下がり方がいちばん大きかったのは、意味の分かる話し声と、歌詞のある音楽です。この2つが並んで最も大きく読解を下げた、と報告されています。
なぜ歌詞なのか。読む作業は、頭の中で言葉を処理する作業です。そこへ別の言葉が耳から入ると、同じ処理の場所を取り合う形になります。話し声についての研究では、邪魔の大きさは音量よりも「言葉として聞き取れるかどうか」で決まると報告されています。小さな音でも、聞き取れる言葉は気を引きます。
この結果の根拠の強さは A です(複数の研究をまとめた分析で、結果が一貫している)。Deep Flow Space が「読む・書く作業では歌詞のある音楽を避ける。流すなら歌詞なし。既定は無音」と提案しているのは、この研究が土台です。
「BGMは効果なし」の中身は、打ち消し合いだった
「勉強中の音楽は、良くも悪くもない」という話を聞いたことがあるかもしれません。これにも元になる研究があります。
Kämpfe、Sedlmeier、Renkewitz の3人は2011年に、背景音楽の影響を調べた研究をまとめて分析しました。全体を平均すると、効果はほぼゼロでした。ただし中身を分けると、ゼロの理由が見えてきます。
- 読解は下げる
- 記憶は少し下げる
- 気分は上げる
つまり「効果なし」は、何も起きていないという意味ではありません。下がる面と上がる面が打ち消し合って、平均がゼロに近づいていたのです。根拠の強さは A です。
この結果から言えるのは、音楽の良し悪しを一つの答えで決めにくい、ということです。読解や暗記が中心の時間には下がる面が前に出ます。気分を整えたい時間には上がる面が前に出ます。同じ曲でも、置く時間によって意味が変わります。
洋楽や歌詞なしの曲なら大丈夫か
検索するとよく見かけるのが、「日本語の歌詞は気になるから洋楽にする」「歌詞のない曲なら平気」という工夫です。ここは研究の量が少なく、言えることが限られます。
アイデアを出す作業についてなら、Threadgold らが2019年に報告した研究があります。1本の論文の中で3つの実験を行い、ひらめきが必要な言葉の課題(いくつかの単語から共通する言葉を見つける課題)を使いました。結果は、歌詞なしの音楽、外国語の歌詞の音楽、よく知っている歌詞の音楽の、どれを流しても成績が下がるというものでした。一方で、図書館の雑音を流した条件では、成績は下がりませんでした。
この研究は1本の論文にとどまるので、根拠の強さは C です。それでも「外国語なら」「歌詞なしなら」影響が消える、という見方には慎重になったほうがよい結果です。
読解について、外国語の歌詞と日本語の歌詞を直接比べた研究は、Deep Flow Space の根拠表の範囲では確認できていません。洋楽なら読解に影響しない、とは言えない状態です。
なお、カフェ程度のざわめき(およそ70dB)では創造的な課題の成績が上がったという報告もあります(Mehta ら 2012、5つの実験)。ただし、独立した追試は確認できておらず、上の Threadgold らの「雑音は影響なし」とも方向が一致しません。こちらも根拠の強さは C で、「試してよいが効果は未確定」という扱いになります。
好きな曲なら集中できる、とは限らない
「好きな曲なら気分が乗るから集中できる」という感覚もよく聞きます。これを確かめた小さな研究があります。
Perham と Sykora は2012年に、好きな音楽と嫌いな音楽を流しながら記憶の課題を行う実験を報告しました。結果は、好きな音楽のほうが嫌いな音楽よりも成績を下げた、というものでした。しかも参加者は、その差に気づいていませんでした。
規模が小さい単独の研究なので、根拠の強さは C です。言えるのは「好きな曲を流せば集中できる」という考えは、研究では支持されていないということまでです。好きな曲ほど注意を引きやすい、という可能性は残ります。
音楽が役に立つ場面もある
ここまで読むと、音楽は避けるものに見えるかもしれません。ただ、作業の最中でなければ話が変わります。
de Witte らは2020年に、音楽とストレスの関係を調べた104のランダム化比較試験(参加者は合計9,617名)をまとめました。音楽を聴くと、心拍などの生理的な指標でも(効果量 d=0.380)、気分などの心理的な指標でも(d=0.545)、ストレスが下がるという結果でした。根拠の強さは A です。
この結果と前の節の結果を合わせると、使い分けの形が見えてきます。
- 読む・覚える最中: 歌詞のある音楽は外す。既定は無音
- 作業の前・休憩: 好きな音楽で気分を整える
- 緊張が強いとき: 落ち着ける音楽を聴く時間を、作業とは別に取る
Deep Flow Space の根拠表でも、好きな音楽は「作業の前や休憩で聴く。記憶・読解の最中は避ける」という置き方にしています。
作業の種類ごとの整理
| 作業 | 歌詞のある音楽 | 根拠の強さ |
|---|---|---|
| 文章を読む・理解する | 最も大きく下げる側(話し声と並ぶ) | A |
| 暗記・記憶 | 背景音楽全般で少し下げる。好きな曲ほど下げた報告も | A(全般)/C(好み) |
| 言葉を使うアイデア出し | 歌詞なし・外国語の歌詞でも下げた報告 | C |
| 作業の前・休憩 | 気分を上げ、ストレスを下げる | A |
表の「A」と「C」は、同じ重さではありません。A は複数の研究をまとめて一貫した結果、C は単独の研究や結果が割れているものです。C の行は「そういう報告がある」くらいの重さで読んでください。
周りの話し声も、同じしくみで邪魔になる
自分で流す音楽を止めても、耳に入る言葉はまだ残ります。家族の会話、隣の席の電話、カフェの店内の話し声です。
Vasilev らのまとめでは、意味の分かる話し声は歌詞のある音楽と並んで、読解を最も大きく下げる音でした。理由も同じです。言葉が聞き取れること自体が、読む作業と取り合いになります。
オフィスの音響の研究では、話し声がどれくらい聞き取れるかを STI という指標で表します。STI が 0.5 を下回ると邪魔の大きさが急に減り、0.20 を下回るとほぼ消える、というモデルが報告されています(Hongisto のモデル。強さ B)。大事なのは音量を下げることより、言葉として聞き取れなくすることです。
そのための手段は、場所を変える・個室やブースを使う・耳栓や遮音イヤーマフを使う、の順に考えるのが根拠に沿います。ノイズキャンセリングのヘッドホンは、低い音には強い一方で、話し声のように変化する音には弱い可能性があります(強さ C)。一般向けの製品で話し声がどれだけ減るかを測った研究は、見つかっていません。ノイズキャンセリングだけに頼らず、耳をふさぐ遮音と組み合わせる考え方が出てきます。
歌詞を外すことと、周りの声を聞こえなくすること。読む作業の音の環境は、この2つでかなりの部分が決まります。
静かすぎて落ち着かないとき
無音が既定と書きましたが、静かすぎると気が散るという人もいます。
注意がそれやすく、音の刺激が少ないと集中が続きにくい傾向のある人では、ホワイトノイズやピンクノイズで課題の成績が小さく上がった、というメタ分析があります(Nigg ら 2024、13研究・335名)。ただし、その傾向がない人では逆に小さく下がりました。対象は子どもから大学生の年代で、社会人での結果は確かめられていません。
歌詞のある音楽の代わりを探しているなら、まず無音で試し、落ち着かなければノイズを短い時間で試す、という順番が根拠に沿います。どちらが合うかは、同じ作業を条件を変えて比べてみないと分かりにくい部分です。
よくある質問
歌詞のない曲なら、勉強中に流しても大丈夫ですか
読解については、背景音楽全般でも成績が下がる方向の結果が出ています(Kämpfe ら 2011)。歌詞がある場合に比べれば下がり方は小さいと考えられますが、ゼロとは言えません。アイデア出しの課題では、歌詞なしの音楽でも成績が下がったという単独の研究があります(Threadgold ら 2019、強さ C)。
洋楽なら日本語の歌詞より邪魔になりませんか
アイデア出しの課題では、外国語の歌詞でも成績が下がったという報告があります(強さ C)。読解について外国語と日本語を直接比べた研究は、根拠表の範囲では確認できていません。「洋楽なら大丈夫」と言える根拠は、いまのところ見当たりません。
好きな曲を聴くとやる気が出ます。それでも止めたほうがいいですか
好きな音楽で気分が上がること、ストレスが下がることは研究でも支持されています(de Witte ら 2020、強さ A)。ただ、記憶の課題では好きな曲のほうが成績を下げたという小さな研究もあります(強さ C)。聴く時間を作業の前や休憩に移すと、両方の結果と両立します。
音を選ぶ前に
歌詞のある音楽が邪魔になりやすいのは、読む・覚えるといった言葉を扱う作業です。音楽そのものが悪いわけではなく、置く時間と作業の組み合わせで意味が変わります。
自分の作業が何に寄っているか、どの時間帯に何をしているかによって、合う音の環境は変わります。いくつかの質問から、作業と時間帯に合う環境を根拠の強さ付きで整理する診断は こちら にあります。
出典
- Vasilev, Kirkby & Angele 2018. Perspectives on Psychological Science 13(5):567–597(65研究のベイズ・メタ分析) https://eprints.bournemouth.ac.uk/29995/
- 話し声の聞き取りやすさと影響(Euronoise 2018) https://www.euronoise2018.eu/docs/papers/326_Euronoise2018.pdf
- ノイズキャンセリングの得意な音域(CDC/NIOSH 1992) https://stacks.cdc.gov/view/cdc/243239
- Kämpfe, Sedlmeier & Renkewitz 2011. Psychology of Music 39(4):403–423 https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0305735610376261
- Threadgold ら 2019. Applied Cognitive Psychology 33(5):873–888 https://clok.uclan.ac.uk/25989/8/25989%20Threadgold_et_al-2019-Applied_Cognitive_Psychology.pdf
- Mehta, Zhu & Cheema 2012. Journal of Consumer Research 39(4):784–799 https://academic.oup.com/jcr/article/39/4/784/1795620
- Perham & Sykora 2012. Applied Cognitive Psychology 26(4):550–555 https://pure.cardiffmet.ac.uk/en/publications/disliked-music-can-be-better-for-performance-than-liked-music/
- de Witte ら 2020. Health Psychology Review 14(2):294–324 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31167611/
- Nigg ら 2024. JAACAP 63(8):778–788 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11283987/
- 根拠の強さ(A〜D)の見方: https://deep-flow-space.com/about-evidence/